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食事に興味はない。だが、食事を通じて
人と交流することは人生を豊かにする

クリス・アンダーソン

味の素(株)が、2018年春に新設した生活者解析・事業創造部。ミッションは、“食の未来を楽しくする”こと。本連載“FUTURE FOOD TALK”では、食の未来についてさまざまな分野の方に聞いていくことで、わたしたちが向かうべき多様な未来を共に探してゆきます。

『MAKERS』や『FREE』などデジタル社会のパラダイムシフトを世に伝えてきたクリス・アンダーソン。元『WIRED』US版編集長として知られ、その後3DRoboticsのCEOへ。ドローン業界への華麗な転身は大きな話題となった。そんな彼が、テクノロジーにより大きく変化した「食」の現在地を語ってくれた。

「食事に全く興味がない」。だが、人と食卓を囲むことには大きな意味がある

クリス・アンダーソン:「食」は睡眠と同じように人間が生きる上で必要不可欠なものだ。しかし、わたしはどちらも時間の無駄だと思っている。ロボットやテクノロジーに熱中しているわたしのようなギークにとって、食べることや寝ることは生物学的に必要なものではあれど、それそのものへの楽しみはあまり感じない。

それこそ、食事と睡眠がすべて錠剤で済めばどれほどいいかと考えているくらいだ(笑)。なぜなら、錠剤で事足りればもっと働くことができるから。「食」に全く興味がなく、口にするのはシリアルとダイエットコークだけのわたしは、この話題における最悪の例といってもいいだろう(笑)。

しかし、人と食事をすることには大きな意味がある。それは、人との間に直接的な会話を生む数少ない機会のひとつだからだ。スマートフォンに没頭し、人と顔を付き合わさずに日々の生活を送ることは簡単だ。そんな環境で、昔から変わらない食卓を囲むことが、人と直接顔を合わせて関係を築くための最後のアンカーになっていると思う。人と一緒に食事をすることはわたしたちを結びつける接着剤のようなもので、社会を織りなす普遍的な要素のひとつだ。

それはわたしにとっても同じなんだ。ダイニングテーブルでの経験には大きな喜びを感じる。わたしが子どものころ、家族全員で食卓を囲み、ディベートをするというルールがあった。意見やその根拠を話すといったやりとりによって、様々なレトリックや議論の仕方を学んだ。これはわたしが家族をもってからも続けていること。スマートフォンは一切テーブルには置かず、あるのは食事、子どもたちとの会話、そしてクイズゲーム。それは、わたしにとっての食事の喜びなんだ。

料理や食のサプライチェーンについて学ぶ、これからの学校

インターネットは物理的な距離を超え、グローバルに人々をつなげるものとして始まった。その一方で、人々がオンラインでつながることでローカルコミュニティの存在が際立ってきたと感じる。それは食の領域においても同じだ。

グローバルなサプライチェーンによって、わたしたちは季節を問わずどんな食材も手に入れられる。しかし、それは輸送コストと食材の品質低下を伴う。冬に遠い場所から運ばれたトマトは食べられるが、それは豊かな香りや味とはあまり言えないだろう? それが、ファーマーズ・マーケットのようなローカルアグリカルチャーが注目される理由だ。

我々が「Local Food Movement」と呼ぶ運動は、地産のオーガニック食材を使ったバークレーにある世界的人気レストラン「シェ・パニース」の経営者アリス・ウォーターズから生まれた。100年前の農業と比べ格段に生産性が向上した現代において、単に食材の品質コストだけではなく、食がもつ環境的な側面がもつコストや、食を通していかに季節に触れるかにも目が向けられている。

わたしの子どもの通っている学校に「Edible Schoolyard.(食べれる校庭)」というプロジェクトがあり、広大な庭園があり、植物や彼/彼女らのランチに使われる食べ物について学ぶだけでなく、料理が重要な授業にもなっている。畑から食卓に届くまでのプロセスのすべてを学び、食べ物がどの季節に、どこから来ているのかという、食品のサプライチェーン全体の仕組みを理解できる学校だ。

「料理」と「ギーク」の共通点

経済的実験としても「食」は面白いと思っている。食材宅配スタートアップ「Blue Apron」は、すでに調理された食事ではなく、レシピと地産の食材が定期的に配送され、それを自身で調理するサービスだ。ファーマーズ・マーケットで得るようなローカルの体験を自宅で体験でき、限られた時間のなかで「自分の手で」料理という実験が行えるんだ。

インターネットというテクノロジーが生み出した「食」のコミュニティでは、単にどうつくるかだけでなく、野菜を育て、新たな材料、植物、香り、さまざまなものを用いて料理を行い、よりよい食生活のための創造的な営みが行なわれている。インターネットの最大の影響のひとつは、食を通して実験を行う人々のコミュニティを創造し、それを共有する力を引き出したことにあるのではないかと思っている。

「料理」が食を民主化し、個人のクリエイティビティをエンパワーした例は多くある。元マイクロソフトのCTOネイサン・ミアボルドは、料理のイノベーションのためのバイオラボを持ち、物理学と化学の知見から、様々な食べ物や味を実験する書籍を出版している。

香りや味の組み合わせなど、調理過程で起こる化学反応を理解する。そんな料理のいち側面は、わたしたちのようなギークにも受け入れられやすい部分だ。ギークにはすべてを法則立ててアルゴリズムに落とし込み、ソリューションを見つけだしたいという欲求がある。コードだけでなくデートや睡眠、もちろん食だってそうだ(笑)。

特に予防医療やパーソナルヘルスの観点からも、それが言えるかもしれない。どうすれば少ない睡眠や食生活でIQやパフォーマンスを高められるか? なにが自分の健康にとって効率的でベストか? 味ではなく、機能的な側面に基づいて科学的に健康を管理する方法が、わたしたちをより効率的で生産的にすることができると信じているし、その方法を常に探している。

料理人だって、すでに存在するものを民主化しようとする「MAKERS」なのだ

単に消費者でいることと生産者になることの違いは、「個人が実験する権利をもつこと」にある。たとえ店やレストランで他の誰かがつくったものを買ったとしても、家に帰って自分でアレンジし、自らの創造性とアイデアを料理に付け加えられる。

わたしたちはすでに調理器具やレシピを手にしており、さらにオンラインで多くの食材や情報にアクセスできる。つまり道具やレシピだけではなく、アイデアをもっているわけだ。さらに、わたしが読書会で本について語り合い新たな視点を得るように、料理を振る舞い、実験を行なうことで、新たなレシピや料理を発見することもできる。

デジタルテクノロジーが現実世界と交わることで起きる、デジタル製造における第三の産業革命「Maker Movement」について語ったわたしの著書『MAKERS』では、テクノロジーによって選択肢が増え、ある特定の領域のものが民主化された変化を伝えてきた。「MAKERS」という言葉はエレクトロニクスや機械に携わる人々のことを指すと思われがちだが、わたしにとっては料理人も「MAKER」であり、むしろ料理は「Maker Movement」の顕著な分野だ。

「食」は、何かをこの手に取り戻したいと思う人々にとってのクリエイティブやイノベーションを促すステージだ。そうした意味で、料理をすることとテクノロジーを用いて世界をつくり変えることには共通点があり、彼/彼女らはみな、すでに存在するものを民主化するアイデアに没頭する「MAKERS」たちなのだ。

クリス・アンダーソン Chris Anderson
ドローン開発企業3D Roboticsの共同創業者、CEO。2001年から12年まで『WIRED』US版の編集長を務め、その間に発表した著書『ロングテール』『フリー』『MAKERS』はいずれも世界的ベストセラーとなった。カリフォルニア州バークリー在住。
佐藤 賢
味の素(株) 生活者解析・事業創造部 新事業グループ長
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