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宇宙でも、「食」は文化交流の象徴になる

宇宙飛行士・山崎直子

味の素(株)が、2018年春に新設した生活者解析・事業創造部。ミッションは、“食の未来を楽しくする”こと。本連載“FUTURE FOOD TALK”では、食の未来についてさまざまな分野の方に聞いていくことで、わたしたちが向かうべき多様な未来を共に探してゆきます。

宇宙旅行や火星への有人飛行が少しずつ現実のものとなるなかで、来るべき「宇宙での暮らし」は、わたしたちの食の未来にどんな影響を与えるのだろう? 宇宙飛行士・山崎直子さんが語ったのは、宇宙においても変わらない「文化交流の場」としての食卓の価値だった。

300種類以上ある「宇宙食」

山崎直子(以下、山崎):わたしが仕事で携わっている「宇宙」の領域でも食は重要であり、進化を続けています。宇宙食はさまざまな国の料理が揃い、その数は300種類を超えているんです。和食の宇宙食も数十種類あり、バラエティに富んできました。宇宙食と聞くと、特別なイメージをもつかもしれませんが、宇宙食の条件を満たした食品は災害食や保存食にも利用できるので、実は身近なんです。

わたしたち宇宙飛行士は事前に試食し、気に入ったメニューを選び、栄養管理士とともに朝昼晩と約1週間分のメニューをつくります。私は白米、カレーライスのルー、カップラーメン、ちょっとしたようかんやあめ玉などの和食も宇宙に持っていきました。カレーライスは、宇宙で食べるとおいしいと聞いていましたし、私の勝負食でもあります。デザートは、ミッション中は慌ただしいので、すぐにつまめる食べ物があると便利だったのです。

宇宙船内での持続的な「食」を実現するべく、試行錯誤が行われている。

宇宙での食事は、地上からの補給で成り立っているのが現状です。わたしたちは宇宙船という人工的な環境で、食事を補給してもらって生かされている。宇宙に行くと、食なくして人は生きていけないと改めて痛感しました。

ただ、国際宇宙ステーション(ISS)では自給自足できるようリサイクルにも取り組んでいます。例えば、トイレで集められる尿も蒸留殺菌をして飲み水に換えますし、実際に私も飲んでいました。空気にしても、二酸化炭素を化学的に吸い取って、酸素に戻して循環させています。

宇宙船での持続的な食事のあり方にも取り組んでいます。船内で少しずつ野菜の栽培が始まっており、レタスなどは水耕栽培で育てて収穫し、食べられるようになってきています。

宇宙でのノウハウが地上でのわたしたちの生活に役立つ可能性もあります。宇宙船では植物の光合成にLEDライトを使用し、より効率的に光合成ができるように赤紫色の少し怪しげな光の元で野菜を育てるのですが、地上よりも3倍速いスピードでレタスなどが育ってくれます。そうした宇宙での実験結果を、今後は地上の農業にも生かせるはずです。

宇宙でのミッションにはあまり関係のないような植物の栽培ですが、わたしたち宇宙飛行士は喜んで取り組んでいます。宇宙船の中はとても無機質で人工的な環境です。植物や森もなく、自然のそよ風が吹いてくるわけでもありません。空気はエアコンで循環させています。そのなかで、生き物に触れる機会はわたしたちにとって嬉しいもの。前を通りかかると、自然に「おはよう」などと声を掛けてしまいます。

宇宙船内での食事は「文化交流」の場になる

岡本達也(以下、岡本):世界各国からクルーが集まる宇宙空間での食卓とはどんなものなんでしょうか?

山崎:宇宙船は無重力空間なので、椅子がありません。天井にぶら下がったり、身体をどこかに固定しながら食べる姿は、宇宙ならではの食卓の風景ですね。

佐藤賢(以下、佐藤):たしかに椅子は必要がないかもしれませんね。

山崎:もともとは食卓もなかったんです。特に、朝昼は慌ただしくて、それぞれがぱぱっと食事を終えてしまうので。ただ、夜ご飯は一緒に食べることが伝統になっていて、その時には食卓があったほうが落ち着くよねという話になり、初期のISSクルーが食卓をちょっとした材料でこしらえて、それが、今でも食卓として使われています。

宇宙でもみんなでご飯を食べると美味しく感じますよね。いろいろな国の人たちが同じ食卓を囲み、地球から少し離れた場所でご飯を食べるのは感慨深いね、と話したことを覚えています。それぞれの国の宇宙食を持ち寄って交換すれば話も弾みますし、食は文化交流の場になると感じました。

岡本:「食卓」の意味をとても考えさせられます。他の国の方に日本食を振る舞ったときはどんな反応でしたか?

山崎:手巻きずしを披露したときは皆さんすごく喜んでくれましたね。長期滞在をしていた野口聡一宇宙飛行士と相談し、持ち寄った日本食で皆に手巻き寿司を振る舞ったことがあります。南極の昭和基地の保存食を少しわけてもらっていたので、キンメダイの煮つけや卵焼きを具にしながら、みんなで食卓を囲んだのもいい思い出です。

食事を通じて一緒に学んだり、体験したり、ちょっと大げさですけれども地球の恵みや未来のことを考えたり。そうしたことの最も身近な切り口の一つが「食」なのではないか。宇宙空間でそう感じることができました。

山崎 直子
千葉県出身。2010年スペースシャトル・ディスカバリー号に搭乗し、国際宇宙ステーション(ISS)組立補給ミッションSTS-131に従事。2011年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)退職後、内閣府宇宙政策委員会委員、一般社団法人スペースポートジャパン代表理事、日本ロケット協会理事・「宙女」委員長、日本宇宙少年団(YAC)アドバイザー、宙ツーリズム推進協議会理事などを務める。著書に「宇宙飛行士になる勉強法」(中央公論新社)など。
岡本 達也
味の素(株) 執行役員
佐藤 賢
味の素(株) 生活者解析・事業創造部 新事業グループ長
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